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福岡高等裁判所 昭和36年(ネ)403号 判決

原告控訴人兼被控訴人 九州相互銀行

理由

訴外合資会社相馬商店(以下単に相馬商店と略称する)が訴外株式会社熊本相互銀行(以下単に熊本相互と略称する)より金三、五〇〇、〇〇〇円の借入をなし、原判決別紙物件目録記載の不動産(以下単に本件不動産と略称する)につき根抵当権を設定し、右両者間に相互掛金契約が締結されたこと当事者間に争のない事実と成立に争のない甲第一号証の四、第二、三号証並びに原審証人古瀬裕三(第一回)、相馬敏光の各証言とを綜合すれば、相馬商店は熊本相互との間に債権元本極度額を金三、五〇〇、〇〇〇円とする貸越契約を締結し、昭和三〇年八月九日その所有にかかる本件不動産につき債権元本極度額金三、五〇〇、〇〇〇円及び日歩金五銭の違約損害金を担保する第一順位の根抵当権設定登記を経由し、相馬商店が熊本相互に対する相互掛金契約による掛込その他一切の債務を怠つたとき、又は第三者に対する債務のため差押を受け、若くは破産、和議、競売の申立を受けたときは本債務につき期限の利益を失い、残金全部を即時支払うべく、この場合相馬商店が熊本相互に対して有する掛込金、諸預金、定期預金等一切の債権は根抵当権とは関係なく熊本相互において何等の通知、催告を要せずしてこれを右貸金債権と相殺しても異議がない旨の約定をなしたこと及びこれに基ずき熊本相互から同月一〇日金三、五〇〇、〇〇〇円を弁済期昭和三一年二月一〇日、利息日歩金三銭五厘、債務不履行の場合は翌日から日歩金五銭の損害金を支払う約定で借入れ、その担保として相馬商店が熊本相互との間に締結していた一口金二〇〇、〇〇〇円、五〇口合計金一〇、〇〇〇、〇〇〇円の相互掛金契約に基ずく給付金及び掛込金につき質権を設定したことが認められ、更に前顕甲第一号証の四、成立に争のない同号証の一乃至三、原審証人大塚誠の証言により真正の成立を認め得る同第四乃至四七号証、原審証人佐々布直輝の第一回証言により真正の成立を認め得る同第四八号証、第四九号証(但し同号証中郵便官署作成部分については成立に争がない)並びに右各証言(但し大塚証人の証言中一部後記認定と符合しない部分を除く)及び右佐々布証人の原審における第二回証言を綜合すれば相馬商店は原告銀行との間にも昭和三二年五月四日債権元本極度額を金二、〇〇〇、〇〇〇円とする相互掛金契約に基ずく給付金及び手形取引契約を締結し(イ)右共同担保として本件不動産につき債権元本極度額金二、〇〇〇、〇〇〇円、利息日歩金三銭五厘、債務不履行の場合の損害金日歩金五銭なる第二順位の根抵当権を設定すること(同月六日登記された)(ロ)相馬商店は原告銀行との間に契約額金一二、〇〇〇、〇〇〇円、掛込額毎月金三〇〇、〇〇〇円、四〇回払の相互掛金契約を締結し、その掛込金及び給付金を共同担保とすること(ハ)相馬商店が右掛込を怠つたとき、割引手形が不渡となつたとき、右契約に基ずく債務の履行が困難となつたとき、公租公課その他第三者に対する債務の支払を怠つたときには通知、催告を要せずして原告銀行に対する一切の債務につき期限の利益を失い、債務全額を即時弁済すべきこと(ニ)この場合相馬商店が原告銀行に対して有する債権はその期限前であつても何等通知、催告を要せずして本契約に基ずく相馬商店の債務と相殺されても相馬商店において異議がないことを約したこと、然るにその後同年七月八日相馬商店は手形不渡による銀行取引の停止処分を受け、支払を停止したので、原告銀行は翌九日前記取引契約を解除し、債権確定の手続をとつたこと、同日現在における右根抵当権により担保される原告銀行の債権は相互掛金契約に基ずく掛戻金債権及び手形割引による債権合計金四、〇四七、四四四円に対し掛込金一、六二五、〇〇〇円を弁済充当した残額金二、四二二、四四四円及びこれに対する昭和三二年七月九日以降日歩金五銭の割合による損害金であつたことが認められ、同月一六日原告銀行が右債権の内元金二、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する同年七月九日以降日歩金五銭の割合による損害金につき本件不動産に対し、抵当権実行による競売の申立をなし、同月三〇日熊本地方裁判所の競売手続開始決定がなされ、昭和三三年五月六日原告銀行が代金四、〇〇〇、〇〇〇円でこれを競落し、同年七月一五日右代金を完納したことは当事者間に争がない。

而して被告が熊本相互の相馬商店に対する第一順位の根抵当権付貸付元利金債権三、九五〇、三八八円を代位弁済し、右代位弁済に伴い同銀行より右金額の債権を根抵当権と共に譲受けたことを被告において認めている事実と前顕甲第二、三号証、成立に争のない同第五九号証、乙第三号証、弁論の全趣旨から真正の成立を推認し得る同第一号証、原審証人古瀬裕三の第二回証言により真正に成立したものと認められる甲第五一号証、乙第二号証、原審証人相馬敏光の証言により真正の成立を認め得る乙第四号証並びに右各証言、原審証人古瀬裕三の第一回証言、当審証人加来一美の証言及び原審における被告本人尋問の結果を綜合すれば原告銀行が前記競売申立をなした頃、熊本相互も亦昭和三二年七月一〇日前記相馬商店との貸越契約を解除し、根抵当権の実行に移り、同年八月一日元金三、五〇〇、〇〇〇円及びこれに対する同年四月一日以降日歩金五銭の割合による損害金につき本件不動産に対し競売の申立をなすに至つたが、相馬商店は前記手形不渡による取引停止処分を受けた後、その再建と債務の弁済に苦慮した挙句、同商店の代表者訴外相馬敏光は熊本相互との相互掛金契約が解除となつた結果、同銀行に対する未給付口掛込金一、七五〇、〇〇〇円については別途に熊本相互に対する債務全額を完済すればその払戻を受け得られることとなつたので、最低競売価格は金三、四〇〇、〇〇〇円であるが、時価少くとも金四、〇〇〇、〇〇〇円以上の本件不動産の負担する前記第一順位の根抵当権付債務その他熊本相互に対する債務を第三者に代位弁済させた上、右金一、七五〇、〇〇〇円の債権につき熊本相互の有する質権を消滅させ、該金員の払戻を受け、その一部をもつて、右根抵当権の被担保債権額を超える代位弁済額についての求償債務その他の債務の弁済にあてると共に残金数十万円を相馬商店の再建資金にあてることを案出し、その頃相馬商店に対して後記認定の如く数十万円の無担保債権を有し、これが取立に腐心していた被告に右代位弁済を要請したこと、そこで被告は本件不動産が第一順位の抵当債権を弁済してもなお競売代金に若干の残余を生ずる程度の価値を有するものと認め、場合によつては自ら競落して自己の所有とし、且つ競売代金より代位弁済による求償債権の満足を得ると共に、前記金一、七五〇、〇〇〇円を相馬商店が払戻を受けたときはその一部をもつて相馬商店に対する本来の自己の債権につき優先的に弁済を受けることとし、敏光の右申出を承諾して、同人と共に右代位弁済及び相互掛込金一、七五〇、〇〇〇円の払戻につき熊本相互に交渉し、その承諾を得て、昭和三三年五月二日相馬商店が熊本相互に対して負担する第一順位の根抵当権付債務元金三、五〇〇〇〇〇円及びその利息金四一四、七五〇円並びに執行費用名義の金三五、六三八円計金三、九五〇、三八八円と相馬商店がその営業資金として敏光の妻相馬静子名義で熊本相互子飼橋支店から借入れていた金五〇、九四八円を熊本相互に代位弁済したこと、よつて熊本相互は前記相馬商店の掛込金一、七五〇、〇〇〇円(当時は相互掛金契約が解除されて別段預金に振替えられていた)につき有する質権を放棄して該金員を相馬商店に返還することとし、同日頃これを同銀行振出の金一、二五〇、〇〇〇円及び金五〇〇、〇〇〇円の小切手二通にして相馬商店に返還し、被告は右小切手二通を同商店から受取つたこと、その結果被告は熊本相互の有していた被担保債権額金三、九五〇、三八八円の第一順位の根抵当権を熊本相互に代位して行使することとなり、同銀行が先になした不動産競売申立につき昭和三三年五月二八日承継手続をなし、同年八月一二日の配当期日において一番抵当権者として金三、九一四、七五〇円の配当を受け、原告銀行は二番抵当権者として金三二三、八三〇円の配当を受けたが債権額金一、五〇〇、〇〇〇円の三番抵当権者たる訴外丸石産業有限会社は全く配当を受けることができなかつたことが認められる。

ところで原告は「熊本相互が質権を放棄して相馬商店に払戻した相互掛込金一、七五〇、〇〇〇円は質権に基ずき当然熊本相互の相馬商店に対する前記根抵当権付債権の弁済に充当さるべきものであり、従つて右代物弁済がなされた昭和三三年五月二日現在における熊本相互の相馬商店に対する抵当債権額はこれを控除した金二、二一一、九〇九円程度であつたに拘らず、金三、九五〇、三八八円という過大な確定債権額を作出して配当を受けたものであるが、右抵当物件たる本件不動産の鑑定価格は金三、四〇〇、〇〇〇円を出でなかつたものであるから、被告のなした右代位弁済及びこれに基ずく配当加入は二番抵当権者たる原告が百数十万円程度の損害を蒙ることを予測しながらなされたものであり、原告の根抵当権付債権の侵害を目的とするものであるから、公序良俗に反し無効であり、然らずとするも権利の濫用であつて、原告に対する不法行為である。よつて被告はこれにより原告が蒙つた損害を賠償すべき義務がある。」旨主張するので按ずるに、前段認定の如く相馬商店は熊本相互に対し相互掛込金に質権を設定し、相馬商店が金三、五〇〇、〇〇〇円の貸金債務につき期限の利益を喪失すべき事由が生じたときは、熊本相互において相馬商店が同銀行に対して有する掛込金、諸預金、積立金等一切の債権は根抵当権とはかかわりなくすべて弁済期到来したものと看做し、何等通知、催告を要せずして熊本相互が相馬商店に対して有する反対債権と相殺しても異議がない旨約諾したに過ぎずかかる場合熊本相互は相殺しなければならない旨を約した事実を認むべき証拠は何もなく、また前顕甲第五九号証、原審における被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第五乃至七号証並びに右本人尋問の結果及び弁論の全趣旨(被告が相馬商店より金五八九、五八一円の弁済を受けた事実を認めている点)を綜合すれば、被告は熊本相互に代位した貸金元金三、五〇〇、〇〇〇円及びこれに対する利息金四一四、七五〇円計金三、九一四、七五〇円の債権をもつて配当加入し同額の配当を受けているのみであつて、それ以外の金額につき配当を受けた事実はないこと、被告は右代位債権の外に代位弁済当時相馬商店に対して手形(三通)割引により同商店に融資した合計金五一五、〇〇〇円及びこれに対する利息債権を有しており、また前記の如く相馬商店が相馬静子名義をもつて熊本相互子飼橋支店から借入れた金五〇、九四八円を代位弁済したため、右金額につき代位債権を有するに至つたので、右元利金合計五八九、五八一円を小切手金合計一、七五〇、〇〇〇円の内から弁済を受けることとし、相馬商店の諒諾の下に前記相馬商店から受取つた小切手二通の内額面金五〇〇、〇〇〇円の分は直ちに右各債権の弁済に充当し、金一、二五〇、〇〇〇円の分については、一旦これを自己名義で熊本相互に定期預金として預入れた上、これを担保として同銀行から借出した金員をもつて右債権の残額の弁済及び被告が訴外道脇末広から相馬商店に借入れを斡旋した元利金約五〇〇、〇〇〇円の返済にあてて、残金は悉く相馬商店に返還したこと(甲第五〇号証は原審における証人相馬敏光の証言及び被告本人尋問の結果と対照すればこの点に関する右認定を覆す資料とはならないことが看取されるところである)、従つて被告は代位弁済した前記第一順位の根抵当権付債権につき配当を受けた外に前記金一、七五〇、〇〇〇円の内から重ねて弁済を受けた事実はないことが認められるのであるから熊本相互はその有する右根抵当権付債権と相互掛込金一、七五〇、〇〇〇円とを対当額において相殺し、右掛込金払戻債務を免れ得ると云うに止り、仮令熊本相互が右措置をとらないときは二番抵当権者たる原告がその主張の如き事情から不利益を蒙る関係に在るとしても、原告主張の如く先ず右措置をとり、その残額についてのみ根抵当権を実行しなければならない法律上の義務はないものと云うべく、従つて熊本相互が相馬商店の相互掛込金につき有する質権を放棄してこれを相馬商店に返還し、被告また右事情を知つていたとしても被告の代位弁済が公序良俗に反し、またはこれに基ずき配当加入した行為が公序良俗に反し、或は権利の濫用に当ると断ずることはできない。また「被告が代位弁済した金額の内金一、七五〇、〇〇〇円に相当する金額は単に第三者弁済の形式をとつたに過ぎず、実質において第三者弁済をなしたものではない。仮りに然らずとするも右金額については第三者弁済と同時にその弁済を受けて求償権は即時消滅し、該金額については代位権は成立しなかつたものである。従つて被告がこれを控除せずして一番抵当権者として金三、九一四、七五〇円の配当を受けたのは裁判所を欺罔して過大な配当を受けたものである。」との原告の主張も理由がないこと明白である。

次に原告は被告の本件代位は任意代位であるからこれをもつて第三者たる原告に対抗するには確定日付ある通知書又は相馬商店の承諾書がなければならないのに、その何れもないから原告に対抗し得ない旨主張するが、右欠缺を主張し得る第三者は代位弁済の目的たる債権そのものにつきこれが欠缺を主張し得べき法律上の利益を有するものに限られるものと云うべきところ、前記認定の如く単に右代位弁済された第一順位の根抵当権付債権の抵当物件につき第二順位の根抵当権を有するに過ぎない原告は仮令その主張の如く右代位弁済により不利益を蒙る関係にあるとしても、右欠缺を主張し得る第三者には該当しないものと云うべきであるから、原告の右主張も採用できない。

以上の次第であるから原告が第一次的になす不法行為に基ずく損害賠償の請求は理由がない。

よつて進んで予備的請求たる詐害行為取消権に基ずく請求につき審究するに、本件詐害行為取消の対象とされるものは債務者相馬商店から債権者たる被告に対してなした弁済と云う準法律行為であるが、一般的には弁済は債務者の積極財産を減少することにより消極財産もまた当然減少すると云う点から考えて詐害行為とならないものとされており、就中履行期の到来した債務の弁済は債権者平等の原則から云つても詐害行為にならないものとされている。然しながら債務者が特定の債権者と通謀して他の債権者を害する目的をもつてなした弁済は詐害行為として取消の対象となり得るものと考えられる。いま本件についてこれをみるに、被告が相馬商店から金五八九、五八一円の弁済を受けたことは被告の自認するところであり、その時期が昭和三三年五月初旬頃であり、該弁済資金が原告主張の前記相互掛込金一、七五〇、〇〇〇円の払戻金であることは前認定の如くである。而して相馬商店が当時経営困難に陥つていたこと及び相当額の負債があつたことは当事者間に争がないところであつて、この事実と叙上認定の諸事実及び弁論の全趣旨とを綜合して考察すれば、右弁済当時債務者たる相馬商店は原告その他に多額の債務を負担しているに拘らず、本件不動産及び熊本相互に対する相互掛込金一、七五〇、〇〇〇円以外に資産を有しないので、被告及び熊本相互と通謀して前記認定の如く右金一、七五〇、〇〇〇円の払戻を受けた上、これをもつて被告及び訴外道協末広に対する債務のみを弁済し、その残額を自ら取得費消し、債権者の一般担保を殊更に減少させる行為をなしたものであつて、相馬商店が右金一、七五〇、〇〇〇円の払戻を受けることを計画したのは要するに本件不動産の競売価格に照らし、熊本相互がその有する第一順位の抵当債権額金三、九五〇、三八八円につき先ず前記相互掛込金の払戻債務金一、七五〇、〇〇〇円と対当額において相殺し、その残金につき配当を受けるときは競売代金の残金は全部第二順位の原告その他の債権につき配当されることとなり、結局相馬商店は右競売手続の終了により全財産を弁済に充てる結果となるので、かかる結果を少しでも免かれ、前記掛込金一、七五〇、〇〇円については熊本相互の質権を消滅させて払戻を受け、その内、数十万円程度でも自己において取得し、経営の立直しをしようと図り、これがため被告をして第一順位の熊本相互の根抵当権付債権その他同銀行に対する債務全額につき代位弁済させたものであつて、かくして払戻を受けた金一、七五〇、〇〇〇円の中から相馬商店が特定の一般債権者たる被告その他に優先的に弁済をなすときは前記競売手続により大部分の債権につき弁済を受け得られないこととなる第二順位の根抵当権付債権者たる原告を害することを相馬商店及び被告は十分知つていたのみならず、むしろそれを目的としていたものであることが窺知されるところである。(原審における被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信し難い。)

以上認定の事実によれば相馬商店が被告に対してなした前記金五八九、五八一円の弁済は債権者たる原告に対する詐害行為として取消を免れず、従つて被告は右金員を原告に支払うべき義務があるが、被告が右金額以外に前記金一、七五〇、〇〇〇円の払戻金から弁済を受けた事実は認められないので、原告の本訴詐害行為取消請求中右金五八九、五八一円を超える部分は理由がない。

被告は仮りに本件代位弁済が詐害行為として取消されたとしてもその金額は債務者の一般財産を構成するものであり、これを原告に交付するときは詐害行為となるから原告のみに交付すべきものではない旨抗争するけれども、取消債権者は取消の結果として受益者又は転得者の受けた利益を自己独り弁済を受けるために直接その請求をなし得ないことは勿論であるが、他の債権者と共に弁済を受けるために受益者又は転得者に対しその受けた利益又は財産を自己に直接支払又は引渡をなすべきことを請求し得るものと云わねばならないから右主張は理由がない。

なお被告は原告が熊本相互より代位弁済をなして第一順位の根抵当権の譲渡を受け、その債権を確保するよう勧められながらこれに応ぜず、他人がこれをなしたからと云つて異議を唱えて本訴請求をなすのは誠実な権利行使とは云えず、権利の濫用である旨抗弁するが右の如き経緯があつたとしても未だもつて原告の本訴請求が権利の濫用であるとは断じ難いところである。

叙上の次第であるから原告の第一次的請求たる損害賠償の請求は失当としてこれを棄却し、予備的請求たる詐害行為取消の請求中、相馬商店が被告に対し昭和三三年五月初旬頃なした金五八九、五八一円の弁済行為の取消と、右金額及びこれに対する本件訴状送達の翌日たること記録上当裁判所に顕著な昭和三三年八月一六日以降完済まで民事法定利率年五分の割合による損害金の支払を求むる部分は理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべきである。

よつて右と同旨の原判決は相当であつて、原被告双方の本件各控訴は何れも理由がないからこれを棄却。

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